「在宅ワークしながら育児」の困りごと、どうすればいい?(第11回)
2020.05.29更新
お伺いした先生大日向雅美(おおひなたまさみ)先生
(恵泉女学園大学学長。専門は発達心理学で、親子関係や家族問題も含めて研究している。
「NPO法人あい・ぽーとステーション」代表理事・子育てひろば「あい・ぽーと」施設長。)
在宅ワーク×育児の困りごと、
どうすればいい?
新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の発表を受け、今なお在宅勤務をされているおうちのかたは「家で仕事をしながら育児をする」状況に疲弊することも多いのではないでしょうか。そこで今回は、オンライン幼稚園上のアンケートでおうちのかたから寄せられた困りごとに対するアドバイスを、大日向雅美先生におうかがいしました。
困りごと①子どもに話しかけられて、仕事にならない…―これまで通りの仕事はできない、という前提で考えること。
在宅ワークはメリットが述べられることが多いのですが、小さなお子さんのいるご家庭で「在宅ワークをうまくやる」ことはそもそも無理ではないかと思っています。通常100だとしたら今は50、70といったように、子どもを見ながらできる仕事量をご自身で見極めて、パートナーがいらっしゃる場合は交代で仕事をしたり、働く時間を会社と事前に交渉したりすることも大事です。その前提のうえで、どんな工夫ができるかを考えられるといいですね。
★「今だけは静かにしていてほしい!」とき、どうすればいい?―子どもと一緒に「企画会議」をしてみましょう。
いきなり「これからお仕事でオンライン会議をするから静かにしなさい!」と言っても、子どもはなぜなのか、いつまで静かにすればいいのかわからないので、いやだと騒ぎます。事前に一日の流れを子どもにもわかるような大きい紙に書いて、例えば「ママは10時から大事な会議をするから、○○ちゃんはビデオの時間にしようか?」と、家庭内で企画会議をやってみてはいかがでしょうか。そのうえで「一緒に決めた時間が来たから、約束通りにしようね」と言うことで子どもも納得できます。
親が一方的にこうしなさいと決めるのではなく、「何をしたい?」と子どもに意見を聞くなどして相談するのがポイントです。一緒に参加して決めるというのは、子どもにとってもわくわくする喜びになるはずです。
一日が終わったら反省会。この一日の始まりと終わりの、家族一緒の企画会議を毎日のルーティンにすることが大切です。どんなに小さくても自分で決めたことは守ろうとする傾向は子どもももっています。ただし、大人だって決めた通りにできないことはたくさんありますから、完璧にできなかったとしても決して怒らないことですね。
困りごと②仕事中、子どもを無視しているようで心苦しい…―あらかじめ一緒に決めた時間で「宣言」しておけば、決して無視ではありません。
子どものことを気にしながら仕事に集中するというのは所詮無理な発想です。ですから、ここはお仕事の時間、と区切ることです。先ほどの企画会議で一緒に決めたわけですから、「よほどのことがなかったらこの時間はお仕事第一にさせてね」と宣言しておきましょう。一生懸命仕事をする親の姿を見ることで子どもが得るものも少なくないでしょうし、無視していると思い詰める必要はありません。その代わり、終わったらめいっぱい子どもと遊んであげましょう。
困りごと③テレビや動画を見せすぎている…―罪悪感をもつ必要はまったくありません。ただし、見せる内容を選ぶことは大事。
テレビや動画を見せることに罪悪感をもつ必要はまったくありません。これまではテレビや動画というと、イコール育児放棄や見せすぎという言葉で捉えられてきましたが、おうちの中にいても広く外の世界を知ることができる窓でもあるのです。
ただし、テレビの番組表等で事前にチェックするなどして、見せていいものを選ぶことは大事です。また、だらだら見せるのではなく、先ほどの「企画会議」で決めた生活表の中でテレビや動画を見る時間も決めてあげるとよいでしょう。「仕事に集中したいから見せる」のではなく、「子どもに見せたいものを見せる時間」という発想にしてみましょう。
こんな対処法、どうですか?
アンケートでおうちのかたから寄せられた「現在の状況下で工夫していること」についても、大日向先生にお話をうかがいました。
対処法①子どもが寝ている早朝や深夜に仕事をする―早朝型に生活リズムを変えるのがおすすめ。
個人差がありますから一概には言えませんが、私は深夜に仕事をするよりも、生活リズムを朝型に変えるチャンスにすることをおすすめしたいと思います。夜は子どもが寝る時間に一緒に寝てしまう方が、子どもも満足します。例えば子どもと一緒に夜9時に寝たら、朝4時に起きて7時までの3時間集中する。これが習慣になるとこの状況が終わってからも、生活リズムは乱れるのではなく、むしろ整います。
対処法②朝のうちにお昼ごはんのお弁当や夕食まで作っておく―お昼をお弁当にするのはとてもいい工夫です。
働きながら3食作るのは本当に大変だと思います。朝食の準備のときにお昼のお弁当を作っておくのは、手間が省けるだけでなく、お昼を会社で子どもと一緒に食べているような感覚でとても楽しいですね。その他、朝または夜を簡単にするなど、どこかでメリハリをつけることも大事だと思います。土日に下準備をしておいて、解凍すればいいだけにしておくといった工夫もよいでしょう。
みんなどうしてる?
アンケートで他にもたくさん寄せられたおうちのかたの工夫やアイディアの一部をご紹介します。在宅ワーク×育児での困りごと解消の参考にしてみてはいかがでしょうか。
- ・午前中に散歩や運動をして、昼寝をさせる
- ・朝のうちに一日分の食事を用意しておく
- ・休憩時間に子どもと一緒に体操や日光浴をする
- ・園と同じ生活リズムで過ごすようにしている
- ・くじ引きを作って、引いたことをやらせている
- ・祖父母とオンラインで結び、絵本の読み聞かせなどをしてもらう
- ・隣で古いパソコンで遊ばせるなど、親と同じことをさせる
最後に…先生からのメッセージ
この度の新型コロナウィルス感染拡大は社会にとって極めて深刻な非常事態ですが、小さなお子さんを育てながら働いている家庭にとっても、まさに想定外の非常事態ですね。もともと子育ては完璧を目指そうとしないことが大切ですが、これを機に肩の力を抜くことを試みてみましょう。ここは大目に見ようと、親子・家族で互いに許し合える関係を築くチャンスかもしれません。
また、「できない」という発想ではなく、できないことや不自由さをおもしろく変える視点の豊かさをもてるといいですね。こんなに濃密に家族が関われることはめったにないことですから、子どもと一緒に企画会議をしてみることで、子どもの発想の豊かさに気づいたり、まだまだ幼いと思っていたわが子が責任をもって家庭生活に参加しようとしてくれることがわかったりと、子どもをひとりの人間として認めることができたら、素晴らしいと思います。